「もっとここを目立つようにしてください。」「もっとここに目を引く色を配色してください。」「ここも、ここも目立たせてください。」「全体的にもっと目立つようにしてください。」デザイナーやディレクターなら誰しもが経験したことのある要望だと思います。 目立つと言うことは悪いことでは無いのですが、度を超して目立たせる行為は、けっしてメリットにはなりません。それには理由があります。
多過ぎる同レベルの情報が、迷いを呼ぶ
例えば全ての情報を目立たせ、情報に優劣が無くなったとします。視覚的には全ての情報が際立ち、売り売りでいい感じじゃん的の優秀なコンテンツに仕上がったと錯覚しがちですが実際には違います。同レベルの選択肢が多いと人は思考を止め次のアクションをおこさなくなるのです。結果意図した結果には結びつく確率が下がってしまいまいます。
これは日常的にも経験があると思います。 長期休暇に「あれやこれをするぞ!」と、意気込んでみたものの結局なにもできなかった。それと似た現象です。
デザインにおいて目立たせるということは当然そのことを考慮していなくてはなりません。デザイナーやディレクターは、そのデメリットをクライアントに説明する義務があります。そこを怠るようではプロではありません。
よくある話しで、優先順位を付けてくださいと依頼すれば全て重要だと答えを返すクライアントさまもいます。 ですが、そこはターゲットに合わせ情報を絞り込むようなディレクションを行わなければ、上記のような結果を招いてしまうことになります。
勘違いしてはいけないのは、選択肢が少ないほうがいいというわけではありません。優劣のない選択肢が多いことが駄目なのです。
人が一度に覚えれる単語は5個前後
人が一度に覚えれる情報はそんなに多くはありません。全てを目立たせるデメリットはそこにもあります。全てが目立つことにより、どれも印象に残らなくなります。デザインにおいて目立たせるという行為は、そういう側面があるということを理解している必要があります。
僕自身もそういう依頼をされることはありますが、直接やり取りできるクライアントさまの場合は、理屈を話せば概ねわかっていただけます。それでもいいから目立たせてほしいと言われても、そこは譲れません。一期一会という言葉があるように、間違えたデザインで訪問されたお客様は、あそこには、いい情報がなかった。というシンプルなたった一つの記憶が残り機会損失につながるからです。
それでも目立たせてくれといわれた場合は代替え案を考えます。制作者として効果があがらないとわかっている制作物を作るというのは断腸の思いです。
日を置いて説得するのも一つの手です。人間誰しも自分の考えを否定されるというのは気持ちのいいことではありません。たとえそれが間違っていたとしてもです。熱くなっているときは頑でも日を置くことにより解決する問題もあります。